「犯罪」のネタバレ・あらすじ
2012.02.26 (Sun)
【あらすじ】
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。羊の目を恐れ、眼球をくり抜き続ける伯爵家の御曹司。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗……。
―魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。高名な刑事事件弁護士である著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描きあげた、弁護士・フェルディナント・フォン・シーラッハによる連作短篇集。
【ネタバレ】
・「フェーナー氏」Fahner
実直なフェーナー医師が、妻を殺害した。その理由は、結婚して間もないときの「誓い」にあった。
「私を離さないで」という誓いをしたため、フェーナー医師は悪妻ながら妻と別れず、長年連れ添った。そんな言葉に、現代ではなんら効力はないが、フェーナー医師は、"現代人"ではなかった。周囲の人間も同情するほどの仕打ちを受けながらも、フェーナー医師は我慢し続けた。
しかし、その限界を迎え、妻の頭に斧を突き立てた。彼はすぐに自首し、淡々と取り調べに応じた。
・「タナタ氏の茶碗」Tanatas Teeschale
日本人実業家であるタナタ氏。そのタナタ氏の屋敷で働く家政婦が手引きをし、サミールたちは金庫の中身を盗み出した。金とともに、彼らは家宝の茶碗も一緒に盗み出し、売りさばいた。
タナタ氏の逆鱗に触れたのは、金を盗まれたことではなく、茶碗を盗まれたことだった。「買い取った額の何倍もの値段で買い戻す」というお触れをだしたタナタ氏。それを耳にした街の顔役・ポコルは、チンピラたちを使い、茶碗を手に入れ、タナタ氏に売りつけようとした。極悪非道なポコルだったが、ある日、拷問を受けた酷い状態の遺体として発見される。
ポコルの死に怯えたサミールたちは、茶碗を弁護士経由でタナタ氏に返却した。サミールたちは、それで事無きを得た。
一方、盗みを手引きした家政婦は、バカンス先で不審な溺死を遂げていた。
・「チェロ」Dee Cello
資産家のもとに生まれながらも、父を嫌い、二人きりで生きる姉弟の話。姉はチェロ奏者を目指し、才能にも恵まれていた。一方、弟は事故を起こし、脳に障害が残った。また、感染症で四肢を切断せざるを得ないような状況であった。
懸命に介護を続ける姉だったが、姉のことも認識せずに、"女性"として求めるような弟の姿に絶望し、姉は弟を殺害する。その後、姉は拘置所内で首を吊った。
子供たちの死を知った父親も、自らの手で死を選んだ。
・「ハリネズミ」Der Igel
犯罪一家に生まれたカリム。彼は、兄弟同様に馬鹿扱いされていたが、実は類稀な知性を備えていた。そんなことはおくびにも出さず、彼は兄弟たちとは距離を保ち、FXや株投資で資産を築いていた。
一方、兄弟の一人が強盗事件で検挙される。その裁判にて、愚か者を装いながらも、兄弟が非常に似通っていることを逆手にとり、他の兄が強盗事件を起こしていた、と証言し、検挙された兄を釈放させた。その一方で、カリムが犯人として名指しした兄には、完全なアリバイがあった。こうして裁判をウヤムヤにしたカリムは、兄弟を救うことに成功した。
・「幸運」Gluck
イリーナは、祖国に絶望し、ドイツに密入国して暮らすことにした。彼女は自らの身体を男性に売り、生計を立てていた。だがある日、客が心臓麻痺で死亡してしまう。慌てた彼女は、同棲している恋人・カレが帰ってくるまで外で待つことにするが、入れ違いで彼が帰ってきて、死体を見つけてしまう。彼女が殺害した、と思い込んでしまったカレは、その死体を解体し、近くの公園に埋めることを思いつく。
イリーナは、遺体が無くなっていること、そして解体を行った浴室の状況を見て、カレが遺体を片付けたと悟った。イリーナは警察に通報し、事情を説明することにした。
「愛のための死体損壊」として、情状酌量の余地を認められたカレは、囚われるのではなく、イリーナとともに国外退去処分となる。
・「サマータイム」Summertime
実業家・ボーハイムは、愛情はすでに無いが、子供のために妻と離婚せずにいた。そんなボーハイムは、シュテファニーに"束の間の恋人"として、ホテルでシュテファニーに密会を続けていた。そんなある日、シュテファニーは、何者かに殺害されてしまう。その第一容疑者として、ボーハイムは捕まり、裁判にかけられる。
防犯カメラに写った時刻から、ボーハイムが犯人であると考えられた。ところが、その映像には落とし穴があった。実は、そのカメラの時刻は、冬時間に設定されており、実際の時刻とは異なっていたのだった。その映像に、ボーハイムではなく、アッバスというシュテファニーの恋人が、本来の殺害時刻直後に写っていた。犯人は、アッバスだったのだ。
・「正当防衛」Notwehr
駅のプラットフォームで、2人のネオナチに冴えない中年男性が絡まれていた。一人はナイフ、もう一人は金属バットを持っていた。ナイフで傷つけられたが、中年男性は、事も無げに2人を殺害した。
正当防衛の適用をするべきだが、刑事は、彼の身元を証明するものが皆無なのが気に入らず、過剰防衛を主張する。そして、実は"明らかなプロ"の仕業による殺人事件が近辺で起こっており、それとの関連性を警察は疑っていた。
だが、結局は正当防衛が認められ、中年男性は駅に戻っていった。
・「緑」Grun
羊を刺し、眼球を繰り抜く伯爵の息子・フィリップ。父親は、農夫たちに弁償していたため、事無きを得ていたが、近所の少女が行方不明になり、フィリップによる犯行と考えられた。フィリップは身柄を拘束されるが、明らかな証拠や遺体は見つからない。近所の人々から、明らかに犯人扱いされ、伯爵にも批判が集中する。
フィリップは、自身のメチャクチャな論理で羊を殺害しつづけたが、少女の殺害は、明らかに否定した。弁護士が主張したように、フィリップは統合失調症だった。
・「棘」Der Dorn
彫像「棘を抜く少年」に狂おしくも興味を持ち続ける博物館警備員・フェルトマイヤー。本来ならば、警備員は様々なフロアを配置転換し、変化をつけることになっていたが、フェルトマイヤーは人事部の手違いで、同じフロアを警備し続けることになった。
彼は来る日も来る日も、彫像のことを考え続けるようになり、精神に変調をきたし始めた。代替行為として、靴屋にの靴に画鋲を入れるいたずらをすることによって、不安感を解消した。
数十年が経ち、定年間近になり、ついにフェルトマイヤーは、彫像を破壊してしまう。器物損壊で告訴する予定だった博物館側だったが、人事異動が行われていない事実を踏まえ、起訴しないことを決定する。
・「愛情」Liebe
パトリックは、恋人を愛していた。二人仲睦まじくじゃれあっている最中、パトリックは、彼女の背中をナイフで切ってしまう。
パトリックは事故と証言するが、実は「愛しすぎているが故に、傷つけてしまう」という衝動に取り憑かれていたのだった。弁護士はカウンセリングを受けることを勧めたが、結局、パトリックは受けず、弁護士を解任してしまう。
数年後、パトリックは付き合っていたウェイトレスを殺害してしまう。
・「エチオピアの男」Der Athiopier
強盗直後に公園と呆然とし、逮捕されたミハルカ。
この逮捕の数年前、ミハルカはエチオピアにいた。
ミハルカは、親にも捨てられ、周囲からも阻害されて育った。そのうち、酒に溺れるような生活になってしまっていた。
「このままではいけない」と思いたち、ミハルカはエチオピアへと旅だった。そこで、貧しい村に住む人々に、コーヒー農園で収益を上げられるようにし、子供たちに教育を施し、医療を受けられるようにした。ミハルカは、村に溶け込み、慕われる存在となった。妻と結婚し、子供たちを授かった。
だが、その幸せな日々に、暗雲が立ち込める。彼の存在を訝しんだ外部の人間により、密入国者と明かされてしまう。そして、エチオピアにやってくる前、銀行強盗を起こしていたことも判明した。
祖国へ強制送還され、彼は数年の刑期を受けることになった。その間も、妻や子供のことをずっと考え、過ごしていた。
仮出所中、彼はすぐにエチオピアの家族のもとに向かいたかったが、渡航費がなかった。仕方なく、彼は再び銀行強盗を起こしてしまう。
だが、彼に逃亡する気力・体力が残っていなかった。そこで、冒頭の公園で呆然としているところを逮捕されてしまったのである。
情状酌量による、大幅に刑期は短くされ、その数年後、ミハルカは同情した周囲の支えにより、エチオピアに永住することができたのだった。
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一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。羊の目を恐れ、眼球をくり抜き続ける伯爵家の御曹司。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗……。
―魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。高名な刑事事件弁護士である著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描きあげた、弁護士・フェルディナント・フォン・シーラッハによる連作短篇集。
【ネタバレ】
・「フェーナー氏」Fahner
実直なフェーナー医師が、妻を殺害した。その理由は、結婚して間もないときの「誓い」にあった。
「私を離さないで」という誓いをしたため、フェーナー医師は悪妻ながら妻と別れず、長年連れ添った。そんな言葉に、現代ではなんら効力はないが、フェーナー医師は、"現代人"ではなかった。周囲の人間も同情するほどの仕打ちを受けながらも、フェーナー医師は我慢し続けた。
しかし、その限界を迎え、妻の頭に斧を突き立てた。彼はすぐに自首し、淡々と取り調べに応じた。
・「タナタ氏の茶碗」Tanatas Teeschale
日本人実業家であるタナタ氏。そのタナタ氏の屋敷で働く家政婦が手引きをし、サミールたちは金庫の中身を盗み出した。金とともに、彼らは家宝の茶碗も一緒に盗み出し、売りさばいた。
タナタ氏の逆鱗に触れたのは、金を盗まれたことではなく、茶碗を盗まれたことだった。「買い取った額の何倍もの値段で買い戻す」というお触れをだしたタナタ氏。それを耳にした街の顔役・ポコルは、チンピラたちを使い、茶碗を手に入れ、タナタ氏に売りつけようとした。極悪非道なポコルだったが、ある日、拷問を受けた酷い状態の遺体として発見される。
ポコルの死に怯えたサミールたちは、茶碗を弁護士経由でタナタ氏に返却した。サミールたちは、それで事無きを得た。
一方、盗みを手引きした家政婦は、バカンス先で不審な溺死を遂げていた。
・「チェロ」Dee Cello
資産家のもとに生まれながらも、父を嫌い、二人きりで生きる姉弟の話。姉はチェロ奏者を目指し、才能にも恵まれていた。一方、弟は事故を起こし、脳に障害が残った。また、感染症で四肢を切断せざるを得ないような状況であった。
懸命に介護を続ける姉だったが、姉のことも認識せずに、"女性"として求めるような弟の姿に絶望し、姉は弟を殺害する。その後、姉は拘置所内で首を吊った。
子供たちの死を知った父親も、自らの手で死を選んだ。
・「ハリネズミ」Der Igel
犯罪一家に生まれたカリム。彼は、兄弟同様に馬鹿扱いされていたが、実は類稀な知性を備えていた。そんなことはおくびにも出さず、彼は兄弟たちとは距離を保ち、FXや株投資で資産を築いていた。
一方、兄弟の一人が強盗事件で検挙される。その裁判にて、愚か者を装いながらも、兄弟が非常に似通っていることを逆手にとり、他の兄が強盗事件を起こしていた、と証言し、検挙された兄を釈放させた。その一方で、カリムが犯人として名指しした兄には、完全なアリバイがあった。こうして裁判をウヤムヤにしたカリムは、兄弟を救うことに成功した。
・「幸運」Gluck
イリーナは、祖国に絶望し、ドイツに密入国して暮らすことにした。彼女は自らの身体を男性に売り、生計を立てていた。だがある日、客が心臓麻痺で死亡してしまう。慌てた彼女は、同棲している恋人・カレが帰ってくるまで外で待つことにするが、入れ違いで彼が帰ってきて、死体を見つけてしまう。彼女が殺害した、と思い込んでしまったカレは、その死体を解体し、近くの公園に埋めることを思いつく。
イリーナは、遺体が無くなっていること、そして解体を行った浴室の状況を見て、カレが遺体を片付けたと悟った。イリーナは警察に通報し、事情を説明することにした。
「愛のための死体損壊」として、情状酌量の余地を認められたカレは、囚われるのではなく、イリーナとともに国外退去処分となる。
・「サマータイム」Summertime
実業家・ボーハイムは、愛情はすでに無いが、子供のために妻と離婚せずにいた。そんなボーハイムは、シュテファニーに"束の間の恋人"として、ホテルでシュテファニーに密会を続けていた。そんなある日、シュテファニーは、何者かに殺害されてしまう。その第一容疑者として、ボーハイムは捕まり、裁判にかけられる。
防犯カメラに写った時刻から、ボーハイムが犯人であると考えられた。ところが、その映像には落とし穴があった。実は、そのカメラの時刻は、冬時間に設定されており、実際の時刻とは異なっていたのだった。その映像に、ボーハイムではなく、アッバスというシュテファニーの恋人が、本来の殺害時刻直後に写っていた。犯人は、アッバスだったのだ。
・「正当防衛」Notwehr
駅のプラットフォームで、2人のネオナチに冴えない中年男性が絡まれていた。一人はナイフ、もう一人は金属バットを持っていた。ナイフで傷つけられたが、中年男性は、事も無げに2人を殺害した。
正当防衛の適用をするべきだが、刑事は、彼の身元を証明するものが皆無なのが気に入らず、過剰防衛を主張する。そして、実は"明らかなプロ"の仕業による殺人事件が近辺で起こっており、それとの関連性を警察は疑っていた。
だが、結局は正当防衛が認められ、中年男性は駅に戻っていった。
・「緑」Grun
羊を刺し、眼球を繰り抜く伯爵の息子・フィリップ。父親は、農夫たちに弁償していたため、事無きを得ていたが、近所の少女が行方不明になり、フィリップによる犯行と考えられた。フィリップは身柄を拘束されるが、明らかな証拠や遺体は見つからない。近所の人々から、明らかに犯人扱いされ、伯爵にも批判が集中する。
フィリップは、自身のメチャクチャな論理で羊を殺害しつづけたが、少女の殺害は、明らかに否定した。弁護士が主張したように、フィリップは統合失調症だった。
・「棘」Der Dorn
彫像「棘を抜く少年」に狂おしくも興味を持ち続ける博物館警備員・フェルトマイヤー。本来ならば、警備員は様々なフロアを配置転換し、変化をつけることになっていたが、フェルトマイヤーは人事部の手違いで、同じフロアを警備し続けることになった。
彼は来る日も来る日も、彫像のことを考え続けるようになり、精神に変調をきたし始めた。代替行為として、靴屋にの靴に画鋲を入れるいたずらをすることによって、不安感を解消した。
数十年が経ち、定年間近になり、ついにフェルトマイヤーは、彫像を破壊してしまう。器物損壊で告訴する予定だった博物館側だったが、人事異動が行われていない事実を踏まえ、起訴しないことを決定する。
・「愛情」Liebe
パトリックは、恋人を愛していた。二人仲睦まじくじゃれあっている最中、パトリックは、彼女の背中をナイフで切ってしまう。
パトリックは事故と証言するが、実は「愛しすぎているが故に、傷つけてしまう」という衝動に取り憑かれていたのだった。弁護士はカウンセリングを受けることを勧めたが、結局、パトリックは受けず、弁護士を解任してしまう。
数年後、パトリックは付き合っていたウェイトレスを殺害してしまう。
・「エチオピアの男」Der Athiopier
強盗直後に公園と呆然とし、逮捕されたミハルカ。
この逮捕の数年前、ミハルカはエチオピアにいた。
ミハルカは、親にも捨てられ、周囲からも阻害されて育った。そのうち、酒に溺れるような生活になってしまっていた。
「このままではいけない」と思いたち、ミハルカはエチオピアへと旅だった。そこで、貧しい村に住む人々に、コーヒー農園で収益を上げられるようにし、子供たちに教育を施し、医療を受けられるようにした。ミハルカは、村に溶け込み、慕われる存在となった。妻と結婚し、子供たちを授かった。
だが、その幸せな日々に、暗雲が立ち込める。彼の存在を訝しんだ外部の人間により、密入国者と明かされてしまう。そして、エチオピアにやってくる前、銀行強盗を起こしていたことも判明した。
祖国へ強制送還され、彼は数年の刑期を受けることになった。その間も、妻や子供のことをずっと考え、過ごしていた。
仮出所中、彼はすぐにエチオピアの家族のもとに向かいたかったが、渡航費がなかった。仕方なく、彼は再び銀行強盗を起こしてしまう。
だが、彼に逃亡する気力・体力が残っていなかった。そこで、冒頭の公園で呆然としているところを逮捕されてしまったのである。
情状酌量による、大幅に刑期は短くされ、その数年後、ミハルカは同情した周囲の支えにより、エチオピアに永住することができたのだった。
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