池井戸潤「民王」あらすじ・ネタバレ
2015.06.04 (Thu)
簡単なあらすじ
1) 与党である民政党の議員・武藤泰山は、総裁選に勝利し、総理大臣となる。着任直後、泰山は息子・翔と心が入れ替わってしまう。
2) この現象は、CIAから盗まれたという最新技術によるものだった。脳波を入れ替えることで、心が入れ替わってしまったようになるという。泰山と翔は、ともに歯医者に行っており、そこで、脳波を転移する装置を埋め込まれたのだという。
3) 裏で糸を引いていたのは、共和党の冬島党首だった。息子と人格を入れ替えることで、支持率を低下させ、共和党を次の解散総選挙で勝利させることを画策していた。冬島は、アメリカの製薬会社・メディシスと結託していた。メディシスは冬島に、新薬の承認規制緩和をさせようとしていたのだった。
4) 冬島は、メディシスからの資金提供で、政治資金規正法違反により逮捕され、今回の入れ替わりを実行していたメディシスの社員も逮捕されたことで、泰山たちは元に戻った。
5) 泰山は、翔との入れ替わりを経て、昔の政治家になりたての頃の熱い気持ちを取り戻す。そして、病気に苦しむ患者たちの実情を知り、新薬の承認規制緩和を行う法案を可決させる。そして、泰山は直後に衆議院を解散し、国民のための政治を行うため、民意を問うことにしたのだった。
起:親子の入れ替わり
与党である民政党の議員・武藤泰山は、相次ぐ前任首相の辞任を受け、総裁選に立候補した。見事、首相の座を獲得することができたが、ねじれ国会という厳しい情勢に加え、総理になって早々、大臣の失言などで、野党から任命責任を追求されていた。
野党第一党である憲民党の蔵本志郎党首に、失言問題について質疑応答を行っている最中、泰山は幻聴を聴いた。蔵本の発言に混じって、女性の言葉が聞こえてきたのだった。その奇妙な現象の後、泰山は意識を失った。
一方、同様な現象が、泰山の息子・武藤翔にも起こっていた。
翔は、大学の同級生である南真衣の営業する六本木のクラブにいた。真衣は、学生起業家として成功した有名人であった。そのクラブで、翔は村野エリカという同級生に出会う。エリカは、政治家の息子ながら、政治に疎い翔を馬鹿にして、一方的な論戦でやり込めていた。その言葉は、国会で泰山が聞いていたものと同じだった。
翔は、クラブにいたが意識を失い、次に意識を取り戻すと、国会にいた。姿形は、父・泰山であり、蔵本に追求をされていた。一方、泰山の方は意識を取り戻すと、クラブにいた。そして、体は翔のものだった。かくして、泰山と翔は、親子で心と身体が入れ替わってしまったのだった。
承:失敗続き
翔は、蔵本議員に質問されていたが、押し黙るしかなかった。同じ派閥の議員に救われ、難を逃れたが、事態が未だに飲み込めず、戸惑うばかりだった。一方、泰山の方は六本木のクラブから官邸に向かった。
官房長官・狩屋孝司に体調不良を疑われ、父の身体となった翔が官邸にいると、そこに自分の姿をした父・泰山がやってきた。親子の会話に戸惑う狩屋に、「心と身体が入れ替わった」と明かす。
もちろん、周囲に明かすわけにはいかず、狩屋のアシストの下、翔は総理大臣を演じることになった。一方、泰山は翔の代わりに、就職活動を行い、会社の面接を受けることになった。
翔は、公設第一秘書・貝原茂平の用意した原稿を読み上げるが、漢字を読むことができず、未曾有を「みぞゆう」などと読む失態を犯してしまう。一方、泰山は銀行に翔の代わりに面接に向かうが、そこで銀行の貸し渋りについて面接官と議論してやり込めてしまう。
上手く行くわけがない入れ替わり生活の中、経済産業大臣の鶴田洋輔がアメリカ合衆国・財務長官との閣僚会議後、記者会見でしどろもどろになっているところを泰山はテレビで見かける。そして、鶴田の自宅でも入れ替わりが起きているのではないか、と考え、調査を命じた。すると、案の定、鶴田もまた、息子と入れ替わっていたのだった。
転:黒幕の正体
防衛大臣・真田武彦の情報により、CIAの最先端技術が盗まれたと発覚した。その技術とは、リモート・ビューイングと呼ばれるものであり、人間の脳に、直接、脳波として指令を送ったり、その脳波を受取るといった技術なのだという。
この技術により、泰山と翔の脳波が入れ替えられ、心と身体が入れ替わったような現象が起きてしまっているのではないか、と考えられた。泰山たち親子や、鶴田親子に共通していたのは、最近、虫歯で歯科治療を受けていたということだった。さらに、親知らずをともに抜かれていた。その際、脳波を転移する装置を埋め込まれたのではないかということだった。
警視庁公安第一課・新田とともに調査を行っていくこととなり、泰山は当初、野党・憲民党の蔵本志郎が裏で糸を引いているのではないかと考え、蔵本の秘書を探していた。だが、蔵本もまた、別れた妻の子供である村野エリカと入れ替えられていたため、蔵本が犯人ではないと判明する。
さらに、憲民党の議員のスキャンダルや、狩屋官房長官の愛人問題が発覚し、民政党および憲民党は支持率でダメージを負った。そんな中、第二野党である共和党が台頭してきており、共和党の党首・冬島一光が黒幕なのではないかと泰山は疑い始めた。
結:誰がための政治か
共和党の冬島党首は、新薬の承認規制の緩和をマニフェストに挙げていた。そのため、海外の製薬メーカー・メディシスと結託。今回の脳波転移による民政党・憲民党の失墜を画策していたのだった。
冬島は、メディシスからの資金提供を受けており、政治資金規正法違反により逮捕され、共和党は逆に大打撃を受けた。さらに、メディシスの社員も新田により逮捕され、事件は解決した。
実は、真衣も冬島に翔たちの情報を流すなど、協力していたことが判明する。真衣は、母親を幼い頃に乳癌で亡くしている。アメリカの新薬の使用を考えていたが、未承認薬であり、使用できなかった。そのため、新薬の承認規制の緩和のため、冬島に協力していたのだった。
真衣は、新薬の販売などができるように、資金調達のため、起業を行っていたのだった。泰山は、ホスピスの訪問時、真衣の患者を救いたいという真剣な気持ちを知った。そして息子・翔もまた、就職活動の中で、なんとか日本を変えたいと思っていることを知るのだった。
今回の、翔との入れ替わりを通じて、泰山は、目先の票や自分の利益ばかりを追求するようになってしまっていたことに気付かされた。昔の、政治家になった頃の気持ちを取り戻した泰山は、医薬品許認可問題を解決することを誓うのだった。
法案を提出し、可決したところで、泰山は衆議院の解散させた。泰山は、「この日本は、俺がこの手で変えてみせる」と熱い気持ちを持ち、民意を問うことにしたのだった。
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